南シナ海仲裁判断をフィリピンが「無視」する?

December 22, 2016

就任以来、様々な発言で波紋を呼んでいるフィリピンのデュテルテ大統領ですが、7月に下された南シナ海仲裁判断(簡単な解説はこちら)を無視する(set aside)可能性を示唆する発言を行ったことが報じられ、フィリピン政府(外務大臣)が火消しに回る声明を直後に発表するなど、ちょっとした騒動になっていたようです。

 

中国との関係改善を重視するデュテルテ政権の関心事を念頭に置けば、大統領の発言はある意味では政治的に整合的に理解する余地はあるかもしれませんが、そもそも国際法的には、いったん下された仲裁判断を無視する(端的に履行しない、あるいは無効なものとして扱う)ことが可能なのかが問題となります。この点、南シナ海仲裁判断は基本的にフィリピン側の「全面勝訴」であり、敗訴した中国ではなく、勝訴したフィリピン側がそうした(ある意味での)譲歩を提示することには政治・外交的には問題は少ないようにも思われますが、法的には必ずしも自明ではないところが残ります。すなわち、国連海洋法条約に基づき設立された仲裁廷が下した仲裁判断の法的拘束力の淵源は、通常の仲裁付託合意ではなく、多数国間条約である国連海洋法条約の規定(付属書VII・第11条)に求められます。

 

The award shall be final and without appeal, unless the parties to the dispute have agreed in advance to an appellate procedure. It shall be complied with by the parties to the dispute.

 

つまり、いったん仲裁判断が下されれば、両当事国(the parties)による履行は義務的(shall)なものとして規定されていることから、敗訴国のみならず、勝訴国による無視(不履行)も条約違反である、という主張がなされる余地が残るわけです。紛争処理における当事者の自律性という観点からは一見して硬直的な帰結にも見えますが、国連海洋法条約という多数国間条約の解釈運用を司るためにある程度強力な仲裁制度が導入されたという経緯に鑑みれば、突き詰める余地のある議論かと思います。

 

 

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